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大日本水産会
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−真のミナミマグロの持続的利用をめざして−

以下はミナミマグロの管理問題に関する国連海洋法裁判所の判決に対する水産庁の見解であり、本会の見解とも一致するものである。

1999年9月8日
水産庁 漁業交渉官
小松 正之

1. 海洋水産資源の持続的利用が重要

 海洋水産資源は、いたずらに保護と漁業の禁止を唱えれば良いものではありません。資源は持続的に利用するために保護するものです。保護目的の保護は多くの途上国や日本のような海洋国家には受け入れられません。貴重で重要なエネルギー及び蛋白源である海の幸と天の恵みとして、人類に与えられたものを我々は利用することが、環境との調和と生存のために必要であります。

 ミナミマグロは南半球を回遊する大型のマグロで、北半球を回遊するクロマグロと並んで、肉質が良く、刺身用寿司用として日本人に大変好まれるマグロです。1980年代前半には、日豪NZの三ヶ国で約40,000トンの漁獲がありました。しかし、豪州のまき網漁業が、0〜2才の10キロにも満たない小型マグロを多量に漁獲し、資源の悪化を招きました。このため日本は、豪州漁業界に小さなミナミマグロの漁獲を減少させるための膨大な資金の支援と技術の提供を行い、積極的に資源保護と回復に協力しました。

 三ヶ国は、漁獲粋を1985年の38,650トンから1989年の11,750トンまで大幅に削減しましたが、その時74%という最大の削減を受け入れて、資源保存と回復にもっとも貢献したのは、日本であります。日本の漁獲粋は、23,150トンから6,065トンに大幅に削減されました。それは漁業者の経営を圧迫し、他の漁場などへの転換も伴ったのです。これは豪州の小型魚の削減も含めて、余りにも大きな削減だったものですから、直ちに削減の効果がみられました。若いミナミマグロを中心に大幅な資源の回復がみられたのです。

2. 科学的根拠に基づくミナミマグロの資源の管理〜独立科学者も調査支持

 95年から、日本は漁獲粋の増加を正式にミナミマグロ保存委員会で提案しましたが、豪州・ニュージーランドの両国は、一匹でも漁獲を増やせば、資源の絶滅の可能性が大きくなると言って譲らなかったのです。双方の見解の差は、資源評価の差でした。豪州・ニュージーランド両国は、漁獲粋が減少したのは、ミナミマグロが減少したからで、喪失した漁場と時期には、ミナミマグロは存在しないと主張し、日本は、ミナミマグロの漁獲粋は、日本漁船の豪州.200海里水域内での操業との取り引きとして、豪州からリンクされ、いたずらに低く抑えられたので必ずしも科学的根拠を反映していない。従って喪失した漁場と時期には、ミナミマグロが生息すると考えました。日本はミナミマグロ保存委員会で、日本と豪州・ニュージーランドの見解の差を埋めるため、科学的情報を収集し、資源評価に合意することを目指して、共同の調査漁獲を提案したのです。

 95年に初めて提案し、96年の科学委員会に正式に検討を要請しましたが、両国は、検討することすら否定し、その後も具体的な対案を何ら出さず、日本の共同調査計画を批判し、受け入れを拒否しました。2年以上に亘る、不毛な両国の拒否権の行使に合い、我が国はやむなく、昨年から、日本の政府の責任による、ミナミマグロ調査漁獲の実施に踏み切りました。結果は、日本が主張した、ミナミマグロ資源は大幅に回復しているとの見解を裏付けるものとなりました。しかし両国は一方的に実施されたものは、そのデータも受け入れられないと狭量の見解を持ち続けたのです。我が国は、調査の実施に際し、資源に悪影響があることが調査結果から判明する場合には、調査の漁獲量全量を日本の国別割当量から返還するとまで明確に宣言もしました。

 このような我が国の主張は、日本・豪州・ニュージーランドがコンセンサスで選出した4人の独立科学者(米、加2人、日)によっても支持されています。このような科学的根拠と適切な設計による調査は、ミナミマグロの資源の管理と、科学の発展に役立っています。しかるに、豪州・ニュージーランドは、いたずらに資源の悲観論ばかりを主唱しました。環境保護運動を背景にして、何でも漁業の禁止に訴えれば、世論の味方があり、正しいような印象を与えますが、それは科学的な裏付けに乏しいものです。

 豪州は、資源状態の悪化を叫ぶ一方で、資源の有効利用上、きわめて悪影響の強い小型魚の漁獲を増加させ、日本市場で売りつづける矛盾をおかしています。

 我々は、客観的な裏付けと科学的な根拠に基づいた漁業管理を、ミナミマグロ保存委員会で主張してきたのです。

3. 世界から高く評価される遠洋まぐろはえなわ漁船の20%削減

 日本は四方を海に囲まれた海洋国家として、海洋水産資源の保護と持続的な利用に、責任をもって取り組み、世界のなかでリーダーシップを発揮しております。世界の漁業資源の保護と持続的利用のため、過剰漁船数の削減、海洋・海岸の乱開発の防止及び海洋汚染などから積極的に海洋と海洋生産資源を守ることが、将来の世代に亘り、この資源を伝えていくために重要であると考え、日本政府は、FAO(国連食糧農業機関)の全加盟国に呼びかけ、全面的な支持を得て、FAOの協賛のもと食糧安全保障のための漁業の持続的貢献に関する国際会議「京都会議」を開催し、上記の目的を盛り込んだ京都宣言及び行動計画を全会一致で採択しました。この京都宣言及び行動計画を受け、1999年2月に、FAOは世界の漁業資源の回復のため、世界の漁船数の20-30%削減を要請する漁獲能力の管理のための国際行動計画を採択しました。

 このような要請に真剣、迅速かつ具体的な行動をもって応えた国は唯一、日本であります。日本は、遠洋まぐろはえなわ漁船663隻のうち2割に相当する132隻のスクラップと許可の抹消による減船を本年実施しました。これにより、マグロ漁船を抱える我が国の漁業基地の地域経済、乗組員や家族は、塗炭の苦悩の中にあって、日夜、経済再生の方途を探っております。これもマグロ資源の適切な保存管理と持続的利用が将来達成されることを願ってのことであります。日本が世界で最もマグロ資源の保護と持続的利用に熱意とコミットメントがあることは、米国やFAOが最も良く理解し、高く評価しています。

4. 科学に配慮を欠いた国連海洋法裁判所の決定

 国連海洋法裁判所に豪州・ニュージーランドが、調査漁獲の中止を求めて提訴しました。このことはミナミマグロ保存条約の規定を無視し、国連海洋法の規定を乱用するものではありますが、我が国が、ミナミマグロ保存委員会で長年に亘り豪州・ニュージーランドの拒否権にあい、必要な科学情報の収集すらできなかったことや、調査が唯一の必要な科学情報収集の手段であること、資源は既に回復基調にあり、日本の調査が全く悪影響を及ぼさないこと、仮に悪影響がある場合には、我が国が全量返還を約束したことをかえりみることなく国連海洋法裁判所が判断を下しました。日本が、豪州・ニュージーランドの合意を得ることなく、調査を実施した点のみをとらえた判決は残念であります。このような判断が下されたことは今後における地域漁業管理機関の活動の軽視を助長することになりかねません。日本がミナミマグロ保存委員会の活動に積極的に協力して来たことが無になりかねません。このような傾向が続けば、地域漁業管理機関での活動に不満を有する国々が、突然、国連海洋法裁判所に訴えることを促進し、地域漁業管理機関の崩壊に拍車がかかるのではないかと懸念します。現在でも地域漁業管理機関は、非加盟国の無秩序漁獲により、機能が大きく麻痺しております。豪州・ニュージーランドは、ミナミマグロ保存委員会加盟国として、まじめに協力して来た日本のみを訴え、非加盟国である韓国やインドネシア、台湾に対しては、漁業活動の差し止め要請を全く行っていないことも大きな問題であります。国連海洋法の限界と矛盾を露呈したものと言えましょう。

5. 行きすぎた環境保護論の是正と持続的利用

 国連海洋法の批准国として、我が国としては科学的根拠に基づく日本の立場の正当性を引き続き主張します。行きすぎた予防主義と、環境保護論の横行を許せば、国連海洋法の適切な運用と海洋生物資源の持続的利用が阻害されかねません。

 豊富にあり、持続できるものを、かわいそうだとか、絶滅の危機にあるとか唱え、環境保護のシンボルとして、保護のための保護をすることは誤りであり、是非とも回避し、是正しなければなりません。この意味で、南氷洋ミンククジラだけで76万頭も生息し、資源が健全なのに利用が否定されたクジラの二の舞にさせてはなりません。