BACK HOME  
大日本水産会
LINE

BUTTON 21世紀の我が国漁船漁業の再生に向けて

社団法人 日本トロール底魚協会
専務理事 吉田光徳

欧州の水産業界は全般的に活気に満ちている
欧州では水産業を21世紀の成長産業と捉え科学技術の進歩が目覚ましい

過去、日本は漁業大国と云われておりましたが、今日、我が国漁業は、沿岸・沖合・遠洋を問わず未曾有の危機に直面しております。その原因は水産資源の減少、国際規制の強化、便宜地籍の横行、輸入水産物の増大、それに伴う魚価安、そして漁業経営体の債務超過を原因とした金融機関の貸し渋り、漁業後継者不足等が挙げられております。

一方、欧米を中心に水産業は活力に溢れており、魅力のある産業として注目されており、漁業後継者不足も耳にしない。一体、我が国漁業が存亡の危機にある中で、欧米の漁業が何故元気なのか、その原因を探ることが我が国漁業再生の鍵が隠されているのではないでしょうか。

欧米の漁業政策の注目すべき点は、漁業を産業として明確に認識し、個々の経営体の規模や、生産性又は経済効率性の向上を当たり前なこととし、漁業者の創意工夫を最大限尊重するという産業政策と資源管理を徹底して行っていることであります。また、乗組員の労働条件についても、陸上の労働者と変わらない、又は、それ以上の労働環境と居住環境を提供しております。

戦後、技術の進歩と共に沿岸から沖合・遠洋へと水産資源を求めて日本を中心に各国とも漁船漁業を発展させて参りましたが、今日、世界の海では水産資源が減少傾向にあります。このような環境の中で、21世紀の世界人口の増大に伴い直面するであろう食料難時代に、地球の7割を占める海に棲息する再生可能な水産資源を如何に安定的に世界の国民へ供給して行くかも世界レベルでの大きな課題であります。日本の漁船漁業において、これらの問題を可決する最適な方策は人間の経験や勘によるのではなく、最先端の科学技術を如何に応用するかであります。

欧米では、厳しい水産資源管理に適用し環境に優しい、また、経済効率性の高い漁業の発展に不可欠な科学技術の発展と進歩が目覚ましく、まさに、漁業界でもIT革命が起こっております。例えば、海中に棲息する魚種組成や体長組成(水深800mでも1mX1m当たりにどのくらいの魚がいるか、また、その一尾当たりの体長は何センチかも1cm単位で分かる)が判別可能な魚群探知機も開発されております。更に、目で見えない海の中で網がどのようになっているかも分かる技術が既に開発されております。このように、海の中が人間の目で見えない従来の漁業は、漁業者の長年の経験や勘が収支を左右する漁業でありましたが、科学技術の進歩と共に21世紀の漁船漁業は、目で見る漁業、即ち、コンピューター制御による漁業が主流を占めることになります。
私は、3月グラスゴーで開催された漁業博覧会への参加と北欧の漁業の実状を視察してきました。新造船を見る機会がありましたが、船の中は宇宙船を思わせるような色々な航海計器・漁労機器・製造機器等が全てコンピューター制御されており、画面で海の中や製造工場の様子が見えるシステムになっております。また、船員の居住区はホテルと同じ設備と環境が提供されております。船主に聞くと収支は黒字で若年層の確保には全く問題がなく、むしろ倍率が高く乗船できない人がいるとの回答。日本の現状を考えれば羨ましい限りでありました。高い技術力と高度で精密な機器が自由に操作できれば、25歳でも3000トンクラスの船長になれるそうです。船長の給料は2000万円弱。

日本の21世紀の漁業も汚い・危険・きついの3Kのイメージのない、まさにプレイステーション感覚で漁業をする時代、即ち、若い人でなければ出来ない漁業になるでありましょう。そのためには、コンピューターに精通した電子技術者の育成が不可欠であり、我が国に於いても、21世紀の漁船漁業を発展させるためには、乗組員と船長の能力の多様化と高度化が必要不可欠であります。コンピューターが好きで海の好きな人は誰でも漁業が出来ることになります。他の産業と同じように漁業が若い人にとって魅力のある産業となる日が一日も早く訪れることを期待したい。